進化するケン
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みなさん、ケン(見)をおぼえたのっていつごろですか。
わたしは賭け事においてあまりイケイケな気分にならないタイプなので、もとからケンが多かった(当たっている日ですら、気持ちが浮ついていると思ったらすぐケンに逃避する)が、それでもケンという言葉とともにその心を教わったときにはなんだか嬉しかった。世界の真理のはじっこにふれたような気がしたし、自分は間違ってないと思えたから。
わたしはなんにつけても非常に受け身のタイプで、一緒にいる人や環境の影響を受けやすい。相手の人やまわりの状況に自分の気持ちをチューニングしてしまうようなことがよく起こる。たとえば、人の嬉しさ楽しさや悲しみ、痛みのような感覚がすぐに伝染する(それがいいことだと思っているわけではなくて、自他の切り分けがへたなのだ)。すると自分のペースが乱れ、いつもの価値観や行動様式を微妙に見失うわけです。わたしが商売で接客やサービスなどをおこなっている人間ならばこの特性をいい方向に伸ばすこともできると思うけれど、個人で賭け事を楽しんでいるときにはけっこう邪魔な性質だ。平常心を保つのがとても難しい。趣味でやっていることで平常心を失ったって全然問題ではないし、むしろイケイケな気分を楽しみたい人も多いと思う。でもわたしは平常心でない自分が好きになれないのです。自分を好きになれないと、その趣味は長続きしない。
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渡邊十絲子(わたなべとしこ)。東京都出身。主婦にして詩人。生涯一競艇客という立場を貫き、問答無用に艇界を斬る気鋭の論客でもある。代表著書は詩を読むための手引書「今を生きるための現代詩」(講談社現代新書)、書評集「新書七十五番勝負」(本の雑誌社)など。