誰でもない存在

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毎年、年末年始にやることが多すぎて、一月じゅうはだいたい虚脱して過ごす。非日常の忙しさをはさむと、ふだんの仕事の段取りをいったん忘れてしまうんですね。今年の正月休みは風邪をひいて鼻水をたらしていたので遊びにも出なかった。コロナ前ならこの程度で「人ごみに出ない」判断などしたことはなかったけれど、人の習慣って変わりますね。ずっと家にいて、ひさびさにテレビをつけっぱなしにしてだらだら仕事をした。好きな番組「ドキュメント72時間」(NHK)の、視聴者投票による人気回ベスト10が暮れに放送されていて、夏に放送された「歴代ベスト10」の再放送もあったので、なんだかずーっとこの番組を見続けていた気がする。

番組が選ぶのは、場所だ。ある場所で72時間カメラを回す。どういう人が来るか、何を話してくれるかはわからない。しかし人気ベスト10に入るような名作回にかぎらず、どんな回でも人の語りはわたしをひきつける。

渡邊十絲子

渡邊十絲子(わたなべとしこ)。東京都出身。主婦にして詩人。生涯一競艇客という立場を貫き、問答無用に艇界を斬る気鋭の論客でもある。代表著書は詩を読むための手引書「今を生きるための現代詩」(講談社現代新書)、書評集「新書七十五番勝負」(本の雑誌社)など。