勝負の場に立て

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皆さん開高健を憶えていますか。むかし、サントリーのCMに出ていた小説家だ。『オーパ!』という釣りの本(ノンフィクション、写真は高橋昇。大ヒット作)のイメージが強いが、芥川賞作家である。サントリーのCMに出たのはおそらくこの人がサントリーの宣伝部に在籍していたことがあるから。旅、酒、釣りと、「大人の愉しみ」を語りつづけた。

巨大な魚と格闘するイメージから豪放磊落な人をイメージしていたけれど、最近この人の随筆を読むようになって、ほんとうはとても繊細で、自分の弱さを語ることもできる人なのだと知った。

河出文庫から出ている開高健のエッセイ傑作選(『魚の水(ニョクマム)はおいしい 食と酒エッセイ傑作選』)を読むと、こまやかで美しい文章に魅了される。むかしむかしの中国でジャスミンの花を買う話など、そのまま散文詩だと言ってもいいぐらいだ。生のジャスミンのねっとりとした芳香と、湿気と、暑い夜のけだるさが迫ってくる。名文家だと思う。

渡邊十絲子

渡邊十絲子(わたなべとしこ)。東京都出身。主婦にして詩人。生涯一競艇客という立場を貫き、問答無用に艇界を斬る気鋭の論客でもある。代表著書は詩を読むための手引書「今を生きるための現代詩」(講談社現代新書)、書評集「新書七十五番勝負」(本の雑誌社)など。