ボートレースでサウスポーは有利?不利?
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左利き有利説
スポーツの世界では一般的に左利きは有利と言われている。特に対人スポーツにおいてその傾向は顕著だとも。これはなぜかというと、そもそも左利きの人は約1割と割合からすればかなりの少数派なので、少数派の左利きが対戦相手となった時に、感覚として慣れない相手に手こずるということがよく言われている。例えばボクシングの世界では「黄金の左腕」と謳われた具志堅用高を始め、長谷川穂積、山中慎介など日本人の世界王者経験者のうち約2割がサウスポーだ。つまりこれは一般の2倍の割合ということになる。ただし利点ばかりではなく、野球の内野手は一塁手以外は左利きよりも右利きに向いているし、ゴルフでは道具がそもそも少なかったり高価だったりする。さらに言えば左利きの指導者自体も少ないので、指導を受ける機会を得づらいということもあるだろう。それでもスポーツで左利きが有利な種目は少なくはなく、日本プロ野球の支配下登録選手の内、投手の約3割は左投げだ。こちらは実に一般の約3倍の割合と、数字が左利きの有利さを雄弁に物語る。
ではサッカーの場合はというと、リオネル・メッシやディエゴ・マラドーナのような天才的プレイヤーもいるにはいるが、かなり少数派と言えそう。日本代表としてワールドカップに出場経験があるレフティは7大会でわずかに12人だった。中村俊輔や本田圭佑、堂安律などインパクトを残す選手がいる反面、サッカーの場合、左利き選手が日本代表まで上り詰めるのは、かなりの狭き門になっていると言えるかもしれない。
モータースポーツでは
ではボートレースはどうなのだろうか。…と、その前にそもそもモータースポーツに利き手は影響するのかという疑問も浮かぶ。他のモータースポーツで有名な左利きといえば、まず80年代から90年代にかけて活躍し、史上最高のF1ドライバーとも言われるアイルトン・セナがそう。レース中の不幸な事故で亡くなってしまったが、いまだにその走りは伝説として語り継がれている。
次にバイクの世界ではやはり史上最高のライダーとの呼び声が高いバレンティーノ・ロッシが左利きだ。奇しくもふたりの「史上最高」が左利きなのは偶然か、はたまた必然なのか…。ちなみにロッシは、左利きの自分は他のライダーよりも右コーナーが得意だと話している。ボートレースは左回りなのでこの話をボートに当てはめるすべはないが、もし右回りでレースをしたら左利き選手が席巻する、なんてことがあるのかも!?
ところでボートレーサーの利き手は、公式情報が公開されているわけではないので、取材時に見てきた範囲での情報となってしまうが、SG級で主だった左利き選手を挙げていくと、岡崎恭裕、篠崎元志、平本真之、稲田浩二、西山貴浩、河合佑樹、桑原悠、佐藤翼などがいる。
かつてあるOB選手から「競艇は左利きのほうが有利。ボートは右手でハンドル、左手でレバーを操るが、ハンドルにそんなに繊細な操作は必要ない。でもレバー操作は瞬間的に微妙な調整が必要になって、それができるとできないではすごく差がつく」という話を聞いたことがある。これは左利きの利点としてはなかなか説得力のある話ではないだろうか。
ではデメリットはないのか。不利な点としてよく聞くのはペラ叩き。ペラの形状から、右手の方が叩きやすいそうだ。左利きの赤岩善生はエンジン整備の工具などは左手で扱っているが、ペラを叩くのは右手だった。平本もやはり右手で叩く派。どうしても力は右利きより弱くなるのではと想像してしまうが…。一方、桑原はすべて左手で叩くと以前聞いた時には話してくれた。ただし「ペラ叩きにしろ、ドライバーでネジを締めることにしろ、右利きの人より時間がかかる」と左利きならではの悩みも吐露していた。
ところである選手は「大雑把に叩くのは左、細かいところは右」で叩いているそうで「この方が理にかなっていると思う」とも言っていた。さらには「右利きの人はこのことには絶対に気づかない」と左利きの独創性を訴える。
左利きの人は右利きの人よりも器用に両手を使える人が多い。世の中のかなりのもの、例えばハサミや包丁などは右利き用にできているので、左利きの人は右手で道具を使う機会が頻繁にあるのだ。こうした日用品の他にも自動改札では右手でICカードをタッチしたり、切符を投入したりすることになるし、自動販売機に硬貨を入れるのも右手が便利。左利きの人は、利き手以外の手を使う機会が、右手の人に比べ圧倒的に多くなる。両手を器用に使い分ける左利きの選手じゃないと気がつかないことがひょっとするとあるのかもしれない。
少ないから仲間意識が芽生える
本誌客員編集長・西山貴浩
思いつく限りだと、篠崎(元志)、下條雄太郎、齊藤仁、須藤博倫、石野貴之。周りに結構いますね(笑)。ポンコツ会メンバーも多いけど、左利き=ポンコツじゃないですよ。だって、大庭元明師匠も林恵祐さんも、左利きじゃないですから(笑)。
「左利きあるある」だと思うんですけど、食事はテーブルの左端に行きます。そうじゃないと、隣の人とぶつかっちゃうんで。これが本当に嫌。メシの時が一番気を遣いますね。左利きで並べばいいんですけど。だから行動でわかるんですよ、この人左利きかなって。必ず左端に行こうとするから。
メリットはたまに女の子にもてること。「左利きなんですか?♪」って、ちやほやされます。それ以外何もないです。
レースの面では、左利きの人はレバー操作がうまいって言いますね。それを狙って、左で食事したりして訓練する人もいるほど。
逆にハンドルに対する違和感みたいなものは全然ないです。
プロペラは基本的に右利き用なので、不便ですけど、右で叩く練習をしました。左利きの人の中には、手をクロスして叩く人もいますけど、僕はそのまま右で。
エンジンをかける時、正しくはスターターロープを時計回りにかけるんですね。左利きの僕は、訓練中、逆回りにかけて、教官に叱られました。「バックするだろうが!」って。エンジンがかかるはかかるんですよ。ただ、逆回転なので、スロットルを握ると後ろに行きます。
やっぱり左利きは少ないから、仲間意識が芽生えるのは、ありますね。
ボート界、左利きの割合は?
では実際のところボートレーサーに左利きは多いのか?前述した通り、オフィシャルに公開されている利き手のデータはないが、100期以降の選手については修了記念時に配られるアンケート資料に利き手を答える項目があるため、これを集計した。結果は、予想外なものとなった。100期以降でデビューした選手の内、左利きの選手は7.3%だった。一般の割合10%よりも少ないという結果。ボートレーサーは左利きが少ないというのが現状のようだ。これは、左利きの人が養成期間中にリタイアする可能性が高いということを意味するのか、それともそもそも左利きの人が選手を目指さないのか?選手OBで左利きの山田達也さんに聞いたところ「辞めていった人に左利きが多かったなんてことはないし、訓練期間中に左利きだから特別にツラい思いをするということはなかったです」と話していたが…。
もうひとつ気になるのは123期以降は左利きの割合が増えているということ。ちょうど元号が令和へと変わるタイミングぐらいから、デビューする選手の内、左利き割合が増えているというのは興味深い事象だ。この中には香川颯太や清水愛海といった選手も含まれる。同期に左利きが複数人いれば、例えばペラ叩きのノウハウを共有して、より精度が上がる可能性がある。94期の麻生慎介は若い頃には同期の稲田と左利き同士でよく相談していたそうだ。人数が増えれば増えるほどメリットも増えるだろう。
それと以前に調べた時は、女子選手の左利き率は低いという話を選手から聞くことが多かったのだが、123期以降はかなり左利き女子選手が誕生している。前述の清水の他にも、上田紗奈、山川波乙、冨名腰桃奈、福山恵里奈などがいる。ボートレースは左利きにとって、サッカーと同じように困難な道なのか、実は左利きにとってのブルーオーシャンたり得るのか、今後の動向を見守っていきたい。