記録的な航跡と記憶されるべきレース

{{ good_count }}

ディープインパクトと思っていたらイクイノックスが出てきた。マラドーナだったのに今はメッシがいる。王さんかイチローさんのはずなのに大谷翔平には逆らえない。

史上最高、最強と称される存在は、新しい記憶によって更新されていく。記録は残ってもその時々の記憶の総量には抗えない。とはいえ、この連載は温故知新を旨として書いてきた。まずは新しい記憶と記録から、昨年MVPの石野貴之が、グランプリで11回目のSG優勝を飾った。もはや上には、野中和夫さんのV17と松井繁のV12しかない。

石野は41歳9か月でSG34優出11優勝。GI優勝9回に対して11回というのも特筆できる。同年齢・同時期に野中さんはV7だった。優出回数が13回に過ぎなかったのは、これはこれで恐るべき確率だが、そもそも年間のSG開催が4節の時代が長く、その後のSG新設もあって22回の優出機会で10回を加えた。最後の優勝は1996年のオーシャンカップ、52歳の時である。

また、松井は同時期に51優出10優勝だった。優出回数の多さが選手像を映し出す。そしてそれから現在までに17優出2優勝。勝敗に占める枠番の度合の増大、ボートレースの環境の変化などによって、積み重ねが滞ったことを理解したい。果たして石野は、この先どれだけSGタイトルを取るのだろう。

石野貴之は、類まれな勝負強さ=SG奪取率で評価を上げているボートレーサーだ。現在これとトップを争う存在は、誰もが認める峰竜太だが、アベレージの高さで他の追随を許さない。昨年8回目の最高勝率選手に輝いた。数字だけ見れば一昨年の8.33(169走)は、表彰対象になった池田浩二の8.26を上回る。懲戒処分を受けていなければ9年連続となっていた。この9年間の勝率ベストスリーはこうなる。

【勝率】
①峰竜太 8.48
白井英治 8.10
③池田浩二 7.88

【SG勝率】
①峰竜太 8.63
②白井英治 8.18
③石野貴之 8.16

【SG優勝】
①石野貴之 10回(29優出)
毒島誠 6回(22優出)
②峰竜太 6回(21優出)

勝率に加えてSG勝率とSG優勝も調べたら、石野貴之と峰竜太の選手像が露わになる。峰の9年間における年間勝率で最も高いのは、2019年の8.74だが、これは優秀でも傑出したものではない。過去には9点を超えた年間勝率が3件ある。

【年間勝率9点台(160走以上)】
◇9.19(彦坂郁雄=1970年)
◇9.06(野中和夫=1976年)
◇9.02(岡本義則=1970年)

野中さんの76年は、期間勝率歴代最高の9.53とともに語られる「史上最強の1年間」だ。何度か書いてきたので重複は避けるが、どれだけ突出していたのかは、年間2位の数字と比べれば分かる。

*勝率 9.06(7.79)
*1着回数 152(107)
*優勝回数 16(7)
*獲得賞金 6088万(2935万)

説明不要の数字の開きだ。中でも獲得賞金は2位(岡本義則)の倍以上、前年1位の2951万円(林通)とも倍以上。業界的には初めて競輪トップの5674万円(藤巻昇)を上回り、同年のプロ野球最高年俸、王さんの5260万円をも凌駕していた。

一方、年間勝率の歴代1位と3位は同じ年の記録である。1970年は大阪万博が国民総意の歓迎ムードで開催されたが(この一点だけでも隔世の感がある)、この年には不滅のボートレース記録が生まれた。それも2つ、彦坂郁雄の「37連勝」と岡本義則の「年間167勝」だ。