〈ボートレース番外編〉PIST6(ピストシックス)のジレンマ

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※PST6ホームページより 「『PIST6』は、6人の選手たちが1周250mのバンクを6周し、最も速くゴールした者が勝利する自転車競技です。

『PIST6』 チャンピオンシップは、ワールドクラスのトップアスリートたちが世界最速の称号をかけて、年間を通してトーナメント形式で戦います」

新感覚のショーアップされたケイリン

千葉競輪で新感覚の競輪が始まったというので、さっそく見学に行ってきました。一言で言えば、ショーアップされたケイリンです。DJによる「No.1、ホワイト、板橋侑我、No.2、ブラック、深谷知博……」とノリノリの進行で、場内ではダンサーやレーザーショー、バンクウォークなど、観て楽しむ仕掛けが至るところに準備されています。レースの方も250バンクということもあってスピード感があり、迫力があります。ショーアップされたレース進行は、ボートレースも今後積極的に取り入れていかなければならない課題だと思います。

ただ、こうした仕掛けは特段目新しいものではありません。室内競技のショーアップは、早くからアメリカで行われていたもので、国内でもBリーグ、Vリーグなどが取り入れています。新日本プロレスもショーアップに力を入れています。公営競技が乗り遅れていただけです。

場内に車券の投票所はありません。入場券売り場もなしです。出走表も置いていません。チケット購入から、場内の飲食もすべてキャッシュレス決済です。スポーツ新聞の掲載や地上波のテレビ中継はなし。レースはYouTube配信で、解説はケイリン選手ではなく、自転車競技者です。出走表はスマホで見て、車券の投票もスマホやタブレットを使ったTIPSTARTIPでのベッティングしかできません。初心者にも楽しんでもらうために単勝式にも力を入れています。

SNSだけに頼った戦略とジレンマ

こうした限定されたやり方で、今後どうなるかです。SNSを積極的に活用した戦略は理解できますが、PIST6がSNSで拡散できるかどうかです。SNSの基本中の基本になりますが、「人は関心のあることにしか関心を示さない」のです。拡散にはベースになる関心事を持つ多くの人たちが必要なのです。

自転車競技は、高校の部活の中で一番お金が掛かると言われています。フレームとタイヤ代がかかります。将来競輪選手を目指す者でなければ続けられないようです。自転車競技部のある高校も限られています。超人的なスーパースターでも出ない限り、マイナーな自転車競技がSNSで簡単に拡散するとは思えません。

PIST6がSNSで拡散する可能性があるとすれば、多くの人が関心を持つ「マネー」です。PIST6の初開催ではキャッシュバックを大々的にやったところ、凄い売上がありました。しかし、2開催目にキャッシュバックを止めたところ、売上は激減しています。キャッシュバックはSNSの拡散に効果ありですが、行きすぎると収益を悪化させる材料にもなりかねません。ここが大きなジレンマです。

もう一つのジレンマは、ペーパーレス、キャッシュレスです。確かに新聞や地上波テレビの影響力は落ちています。利用している年齢層も高齢者が多いので、そこに頼るのは将来性がないというのも理解できることです。

キャッシュレスはどうでしょうか。キャッシュレス決済は2010年に12%だったものが、2020年では29%まで増えています。しかし、70%はキャシュレス決済になじんでいない人です。その人たちを切り捨てて経営が成り立つのかです。ニッチな商売ならそれでも良いでしょうが、メジャーを志向したときに、30%をマーケットの対象にするのは経営的に疑問の残るところです。キャッシュレスが社会全体に急激に浸透するとは思えません。

ある意味、PIST6は大きな社会実験の場です。ボートのファンでもPIST6を観戦する価値は十分にあります。時代を先取りして挑戦することは大いに評価しなければなりませんが、「時代が早すぎた」は、どこにでもある出来事です。今後を見守っていきたいと思います。

桧村賢一

1947年福岡県生まれ。「競艇専門紙・ニュース」を経て、現在は「マンスリーBOAT RACE」のライターとして執筆活動のほか、レジャーチャンネルでのレース解説、BTS市原、岡部、岩間などで舟券塾を定期的に開催している。「舟券を獲る最強の教科書」(サンケイブック)「よくわかるボートレースのすべて」(サンケイブック)などボートレース著書多数。