ボートレース若松優勝選手
平成25年5月5日
スポーツニッポン杯争奪GW特選競走
激闘V! 原田富士男ここにあり
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「富士男ー!!」
「篠崎ー!!」
水上で激突する2人の男の名を、多くの観客が叫んでいた。拳を握っていた。選手同士、観衆同士の熱い魂がぶつかり合う。そんな最高の3分間だった。
1周1マーク。先マイを打ったのはインの原田だった。エンジンパワーは十分で、今節は本人もリズムよく乗れていた。もちろん1番人気。1-2が3.8倍、1-3が4.6倍、1-4が7.6倍。期待は大きく集まっていた。
だが、やはりあの男は黙ってはいなかった。前期8.03のハイアベレージを残した若手スター・篠崎元志である。先マイする原田の懐に、3コースから渾身のマクリ差しハンドル。これが見事に入ったのだ。ターンの入りでは原田の逃げが決まったかのようにも見えたのだが、ターン出口からバックストレッチで、赤い勝負服はグイグイグイと好脚を見せつける。シリーズ序盤は凡な舟足だった篠崎だが、この大一番に合わせてここまで直していたのである。「まさかと思った」。原田は焦った。篠崎の足をそこまで想定していなかった。バック直線は内に篠崎、外に原田。どうする。このままでは篠崎に有利に2マーク先取りされる。原田にとって形勢は不利に傾こうとしていた。どうする。
しかし、チャンスはまだあった。バックストレッチ、最内を走っていた3番手の西山貴浩が猛然と2マークに突っ込んでいったのだ。旋回角度などない。だが西山は自分にはこうするしかないと言わんばかりに、2マークへ突入。篠崎はこの西山を差して交わす余裕はなかった。握って避けるしかない。思い切り握りこんで2マークをブン回す。だが西山を意識した分、外側に流れた。
ここだ。勝機だ。外に構えていた原田は渾身の差しハンドルを切った。そういえば、今節はよく原田の“2マーク逆転”を見た。初日も2マーク差しで白星を取ったし、2日目にも吉田弘文を綺麗に差してさばききった。今回も同じだ。鋭く、速く。西山、篠崎の2本の引き波を越え、白い勝負服が風を切る。そして、先マイした赤いカポックを捕えた。
ここ一番の名シーンに熱く盛り上がるファン。その目の前、ホーム直線を2人が駆け抜ける。原田が内、篠崎が外。両者艇を並べて2周1マークへ。
篠崎が差しに構え、今度は原田が気迫の先マイ。ここでわずかに彼にリードが生まれた。
バックストレッチでは篠崎が懐をこじあけようと迫るも、その艇先を抑え込んで2マークを意地の先制。ここで原田がもうひとつリードを広げることに成功した。篠崎もさすがの闘志でまだまだ追いかけてくるが、原田も必死にトップを守る。そのまま振り切り、嬉しい今年初ゴールへ。
3周目まで目が離せなかったGW決戦は、円熟のベテランに軍配が上がったのだった。
「僕はいいエンジンに乗っているだけ」。原田はそう謙遜する時もあったが、それだけじゃないだろう。こんな良いレースを見せられると、やっぱり原田の巧みなハンドルと、勝機を逃さない判断力はさすが。そう改めて思わされるのである。
「(1着が)元志じゃなくてすみません」。レース後、そう言ってしまうところに、このベテランの人柄の良さもあった。
ウィニングランでも、多くの地元ファンから手を振ってもらい、声をかけてもらい、ヒーローは目尻を下げていた。「お客さんの顔は見えます。最高でした。やっぱり地元で勝つと嬉しいですね。ただ、なんで僕の場合は『原田ー!』じゃなくて、『富士男ー!』って呼ばれるんですかね?」。そう言って、原田は首を傾げながら笑った。たしかに、ファンも選手もレース場関係者も、「富士男さん」や「富士男ちゃん」と呼んでいることが結構ある。そっちのほうが親しみがあるのだろう。本人もよく冗談を言って周囲の笑いを誘う明るいキャラでもある。
ただそれでいて、芯が通っていて真面目。良き指導者の面もある。今節は選手代表も務めた。若手の育成にも熱心で、よく訓練に足を運んで後輩の指導にあたる。川上剛、池永太、西山ら全国各地で評判のいい選手達は、この原田を見て育った。「(陸でも水の上でも)僕がだらしないと、後輩も真似しますからね。これからもしっかりと走りたいですね」。優勝して喜んだ後でも、後輩の話になると目が真剣になって師匠の顔になっていた。
今後もきっと、たくさんの若い選手の手本となる。そしてスタンドのお客さんからは「富士男ー!」という温かい声援がこの男に飛んでくるのだろう。
多くの人に慕われ、愛され、そして強い。こんな44歳、カッコよすぎである。