ボートレース若松優勝選手
平成25年1月11日
ジェイアール九州エージェンシーカップ新春特選競走
年末の悪夢も払拭! 渡辺浩司が地区戦へ弾みのV
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「大村の悔しさは、今回晴らせましたね」
見事に若松正月戦を制した渡辺は、そう言ってホッと一息ついた。
大村の悔しさ――。それは12日前にあった。年も押し迫った2012年12月30日。渡辺は大村のピットにいた。一般戦の最終日。渡辺は今回の若松と同じく、優勝戦1号艇の座を掴んで、仕事納めのラスト一戦に臨んでいた。5場所連続準優進出と自身のリズムは良く、機も良く、渡辺が優勝で締めくくるのだろうと、大いに注目された。波高7cmの荒れた水面ではあったが、インが有利な大村水面。人気も集めた。
しかし、レースはまさかの展開だった。インからコンマ19のスタートを切った渡辺だったのだが、スリット隊形が中ヘコみで、大外から人気薄の稗田聖也(B1級)がマクってきたのである。捨て身のような勢いで迫ってくる。想定外だった。渡辺は、なんとか後輩の稗田にマクリ切られる前に、意地でも同体で1マークを旋回した。格上の渡辺なら迎撃できるはずだった。ところが、1マークの出口付近で彼の艇先が浮かび上がった。「あっ」と思った瞬間、大きくバランスを失い、不自然な水しぶきが上がる。もう、そこでダメだった。渡辺は大村の水面へ放り出されていた。仕事納めが、屈辱の転覆失格。優勝戦の白カポックを着た男が、寒空の下でずぶ濡れになってレスキュー艇に引きあげられる……。目を覆いたくなるシーンだった。掴みかけた優勝は、寸前で指の間をすり落ちていったのである。渡辺にとって"悪夢の年末"であった。
ただ、彼はそれをバネにして、今節の若松で存分に力を発揮した。ふがいない、悔しい思いを抱えたままで終わる男ではないのである。
今回は若松水面を知る地元勢が集まるシリーズで、たしかに一筋縄ではいかなかった。得点率争いも激化していた。それでも、マクって差して抜きあげて、白星を勝ちとっていく渡辺には安定感があった。予選は2位通過。準優はインからコンマ06スタート。渾身の逃げを観客に見せての1着ゲット。逆に、予選1位通過の宇土泰就が準優で姿を消し、優勝戦の1号艇が渡辺に巡ってきたのだった。
エンジンパワーも節一と誇れるものに仕上がった。問題ない。大村のリベンジを果たす舞台が整った渡辺は、インコースから気合いのコンマ09スタートを踏み込んでみせた。「ちょっとビビりましたけどね」と苦笑いを浮かべたが、1マークは堂々のモンキーターン。3コースの水摩敦がマクリ差しを狙ってきたが、それも許さず。だんだんとリードを広げてトップ独走。今節の自分の一番時計を更新する1分45秒6で、フィニッシュラインを駆け抜けていったのだった。ちなみに、今節の渡辺はインに3回入って全勝。平均スタートもコンマ11と鋭く、イン戦信頼度の高さを示した。
「大村のこともあったし、この優勝戦をインから勝てて良かったです。次は、地区選でまた若松に来るので頑張ります!」
そう言って帰路につく渡辺は足取りも軽そうだった。もし、また今回もイン戦で負けていたら、とんでもない不安材料になっただろうが、それも心配ない。大村からの負の流れは断ち切ってみせた。しかも、1月22日からの九州地区選直前に当地を走ったことで、エンジン調整の面でもプラスになることがある。本番も期待は大きい。
2012年は最悪の終わり方になっが、今年は最高の始まりになった。なかなかA1級に定着できない時期があり、全国的には地味なイメージもあるが、今は3期連続でA1級キープ。巧みなハンドルとスピード戦が光る。現在勝率は7.40をオーバー。安定感も増した。そして今年は30歳。そろそろ、一皮むけた渡辺が大きな大会で存在を示す頃だ。